【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第19章 Dear My Father... ※
しかし、現実は違った。
それは外門を出発してすぐのこと。
10メートルを超える巨人が、突然ペトラの目の前に現れた。
だらしのない贅肉がぶら下がった腹、異常に細い手足。
虚ろな二つの目が自分を捉え、厚くめくれた唇が捕食するために大きく開く。
想像していたよりも遥かに怖ろしい姿に見えた。
「立体機動に移れ!」
エルドの指示を理解できたのは、巨人の手がペトラを掠めたあと。
何とか避けることができたものの、あまりの恐怖に足がすくむ。
その向こうには、別の巨人が一人の兵士を食べていた。
人が、“食べられている”。
話には聞いていたものの、実際にそれを目の当たりにすると胃の中の物が出てきそうになる。
立体機動のトリガーを懐から取り出そうとして、もたついている時だった。
「ぎゃあっ!」
隣にいたはずのオルオの叫び声。
ペトラが顔を上げると、オルオは巨人の右手の中に収まっていた。
「オルオ!」
「ひっ、た、助けてくれぇ!」
一瞬で訪れた死の恐怖に、オルオは今にも卒倒しそうだった。
「あ・・・あ・・・」
助けなければいけない。
でも、どうやって?
人の何倍もある大きさの化け物を相手に、どうやって戦えというの?
三年間かけて習得してきたはずのその術が、何一つ出てこない。
巨人が涎を垂らしながら、オルオの頭に食いつこうとしたその瞬間。
「どけ、ペトラ!」
背中を強く押され、地面にへたり込む。
顔を上げると、エルドの金髪が揺れているのが見えた。
巨人の肩にアンカーを刺し、オルオを掴んでいる右腕の腱を削ぐ。
すると、口から泡を吹いている男はまるで人形のように地面に落ちた。
間髪入れずに、今度はミケが巨人にトドメを刺すべくうなじを削ぐ。
冷静に巨人を倒す二人を前にして、ペトラは震えが止まらなかった。
私は・・・なんで、ただここで見ているだけなの・・・?
ここは壁外。
巨人を1体倒したからといって、これで終わりというわけではない。