【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第17章 Painting Of Love
「サクラさん・・・一つ、聞いていいですか」
「はい」
「何故、貴方は調査兵なのですか?」
巨人に喰われることが恐ろしくないのか。
仲間が死んでいくことが恐ろしくないのか。
「貴方は今、幸せだと言っていましたが・・・死んでしまってはその幸せすら消えてしまいます・・・それなのに、何故・・・!」
窓から差し込む月明かりが、サクラの顔を白く照らす。
とても静かな表情で画家を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「幸せだから・・・です」
「え・・・?」
「自分が幸せだから、この世界の未来を守りたいんです」
この壁の中で自分だけが幸せなのではない。
生まれたての赤ん坊を抱く母親、心を通わせる恋人達、夢を叶える若者・・・
人の数だけ、いろんな形の幸せがある。
「憲兵が守っているのは“過去”、駐屯兵が守っているのは“現在”・・・」
憲兵は、人類が逃げ込む時に持ち込んだ過去の知識、歴史を守っている。
駐屯兵は、人類が穏やかに日常生活を送れるよう、壁内を守っている。
「そして、“未来”を守るのは、私達・・・調査兵です」
本当に人類はこの先も限られた土地、資源でしか生きていくことができないのか。
巨人の脅威から解放されれば皆幸せになれるというのなら、命をかける理由としては十分。
画家は何も言えなかった。
むしろ、サクラにそんな質問をしてしまった自分が情けなかった。
彼女は、紛れもない調査兵なのだ。
その犠牲の上で、自分達は幸せになろうとしている。
「・・・変なことを聞いてすみませんでした・・・戻ってきたら、モデルをお願いします」
「はい」
目の前にスッと差し出された右手。
画家は少し躊躇いながらもその手を握った。
第55回壁外調査。
これが終われば、もう一度サクラを描くことができる。
どうか・・・どうか、死なないでください。
“貴方自身”の未来も守ってください。
サクラを乗せた馬車が見えなくなるまで、何度も何度も呟いた。