【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第17章 Painting Of Love
「なんでもありません。遅くなるとリヴァイ兵士長も心配なさるでしょうから、もう始めましょうか」
「はい」
サクラは頷くと、ローブの帯をほどいた。
自分に心を許してくれたからなのか、それともリヴァイのための絵だからか。
躊躇なく裸になろうとするサクラから慌てて目を逸らした。
リヴァイがいない今、二人きりで彼女の裸体を目の前にして平常心を保てるだろうか。
“ 少しでも“男”としてあいつの体を見た時は・・・その場でお前の両目を抉る ”
冷たい声が響く。
だが、その主はもういない。
画家は素肌をさらけ出して、キャンバスの前に立つサクラを見つめた。
今すぐ彼女を抱きしめ、欲望をぶつけたい。
しかし、今度は静かな声が脳裏に響いた。
“ あんたが“画家”だということはもう分かった。だから、ここにサクラ一人を置いていける ”
リヴァイはきっと・・・
画家の絵を見て、彼のサクラに対する想いを悟ったのだろう。
なんと不器用で、お人好しなのだろうか。
サクラを奪う人間は躊躇なく殺す、恐ろしい男であることは間違いない。
しかし、サクラに向けられた愛情は、それが自分のものであっても、他人のものであっても大切にしようとする。
心の底から彼女を想い、憧れ、そして愛しているに違いない。
「サクラさん、これを肩に羽織ってください」
画家は薄桃色のストールを差し出した。
すると、透けた素材のそれを見たサクラの頬が上気する。
「素敵・・・“桜色”のストールですね」
「桜色?」
色に関しては熟知している画家だが、“桜色”というのは初めて聞いた。
このピンクと白の中間色のことを指すのか。
「はい。桜という木があって、この色の花を咲かせるんですよ」
「桜・・・初めて聞きました。いつ頃咲く花なのですか?」
「春、ほんのわずかな時期にだけ咲くんです。残念ながら、ウォール・マリアのある地域にしか生息していないので・・・」
「ということは、もう見ることができないのですね・・・」
サクラは少し黙ってから、ふと笑顔を見せた。
「見ることができても、できなくても・・・私にとっては何よりも大事な花です」
よほど強い思い入れがあるのか、その言葉を口にしたサクラの瞳は潤んでいた。