【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第17章 Painting Of Love
リヴァイが帰り、画家とサクラの二人きりになると少し気まずい空気がアトリエに流れた。
予想もしていなかった状況に戸惑いながらも、画家は胸が高鳴っていた。
「あの・・・サクラさん、お腹すいていませんか?」
そういえば、昼食を食べていない。
すでに3時を回っているだろうか、しかし二人とも空腹感は無かった。
「私は大丈夫です。でも、お腹がすいているようでしたら、私に構わず食事をなさってください」
「ならば、温かい紅茶を持ってきます。胃が空になるのは体に良くありませんから」
画家はそう言ってアトリエから出て行き、キッチンから紅茶と焼き菓子を持ってきた。
促されるままに口に含むと、優しい甘さと良い香りが広がる。
「おいしいです」
「良かった」
リヴァイがいないためか、少々表情の硬かったサクラに笑顔が戻ったのを見て安堵する。
「・・・リヴァイ兵士長から絵の注文を受けるとは思ってもみませんでした」
画家がティーカップを口元に運びながら言うと、サクラも意外そうに頷く。
「私もびっくりです。前に兵長と芝居を観に行ったんですけど、劇場にあった絵画には見向きもしませんでしたから」
「はは、彼らしいですね」
裕福な貴族が資金源の芝居劇場には、著名な画家の絵がいくつも飾られている。
それらに見向きもしない人間は、リヴァイくらいのものだろう。
しかし、何故か自分の絵には心を動かされていたように見えた。
絵の良し悪しではなく、そこから何かを感じ取っていたようだった。
画家は、窓辺にもたれかかり空を見上げているサクラに目をやった。
「きっと・・・」
きっと、同じように彼女を愛する者が描いた絵だからかもしれない。
「え? 何か仰いました?」
画家の言葉を聞き取れなかったサクラが振り返る。
本当は今、想いを告げるチャンスなのかもしれない。
でも、画家はそうしなかった。
無駄に気を使わせてしまっては、大事な“注文”の絵を描けなくなってしまう。
彼はこのアトリエの中にいるうちは、一人の男であるよりも、一人の画家である方を選んだ。