【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第17章 Painting Of Love
カリ・・・カリ・・・
アトリエは静まり、木炭が画布を引っ掻く音、そして三人の息遣いだけが響いていた。
時折、リヴァイがサクラの髪を撫でる。
本当に表情が乏しい男だ。
口の両端を上げて笑う姿を見たことがない。
会話をする時も唇を僅かに動かす程度だから、喜怒哀楽の区別がつきにくい。
しかし、こうして絵を描くために観察していると分かる。
彼は口よりも瞳で物を語るのだ、と。
初めて兵士長と目を合わせた時、足が竦んだ。
サクラと二人きりで中庭にいたことが気に障ったのだろう。
その瞳は警戒心を剥き出しにしていた。
しかし、今はどうだ。
恋人を見つめるそれには、一切の冷たさも、威圧感もない。
その代わり、僅かながら恐れの色が混じっていた。
その逞しい腕から、愛しい存在がすり抜けて、失ってしまうことに恐怖しているのか・・・
この世に存在し得ない“永遠”を願い、求めている。
それを痛いほど感じたから、画家は自分にできることに没頭した。
リヴァイが求める“永遠”をキャンバスの中に残す。
“ リヴァイ兵長と私の全てを表すような絵をお願いします ”
「果たして私にできるのだろうか・・・」
画家は呟いた。
そして、もう一度リヴァイを見る。
なんと繊細な顔立ちをしているのだろうか。
シャープな輪郭、筋の通った小ぶりな鼻に、薄い唇・・・まるで少年のような造りをしている。
しかし、細くて直線的な眉と、重たそうな二重まぶたが、かろうじて彼を年相応に見せていた。
そんなリヴァイの腕の中にいるサクラ。
今にもキスを落とそうとしている彼の愛情を一身に受け、幸せそうに微笑んでいる。
もし、あの表情が自分に向けられたものだったら・・・
石炭を握る画家の手に力が入った。