【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第17章 Painting Of Love
もし今ここにキャンバスと絵の具があれば、目に映るこの光景を残していただろう。
サクラと肩を並べて歩く、それだけでいつもの倍以上も世界が明るく見える。
「こちらが中庭です。本館と居住棟の間に位置し、兵士達の憩いの場となっています」
ひとつひとつ丁寧に説明する声に耳を傾けながら、その横顔を眺めた。
ブラウンがかった黒髪に、肌の色はクリームイエローにスノウホワイトか。
やはり“東洋人”の血を引いているのだろう。
唇はコーラルピンクで小さめ・・・しかし、丸みがあって艶やかだ。
本当に・・・兵士なのだろうか。
「あの・・・私、顔に何かついていますか?」
凝視されていることに気がつき、サクラは少し恥ずかしそうにはにかんだ。
「す、すみません! 職業柄、どうも遠慮なく人を見てしまう癖がありまして・・・」
「謝らないでください。それだったらいいんです、私、変な顔でもしてたのかと思って」
「何を仰るんですか! とても美しいです」
「え・・・?」
思わず口をついて出てしまった言葉に、驚いているようだった。
そして次の瞬間、小さく吹き出す。
「ふふ、面白い方ですね」
冗談だと思われたのだろうか・・・
本心から出た言葉だということを伝えたい、そう思った矢先。
サクラは数メートル先を指差した。
「あれが花壇です。といっても、私が勝手に手入れしているだけですが」
「ああ・・・」
横2メートル、縦1メートルほどの小さな花壇。
コスモスやゼラニウムなど可憐な花を咲かせていた。
間違いない、ここだ・・・
芸術の対象としてではなく、生身の人間として心が躍った、数少ない人。
自分の存在になど気づきもせず、ここでただひたすらに花の世話をしていた。
「今はそんなに多くはないですが、春になったらもっとたくさんの花が咲くんですよ」
よほど花が好きなんだろう。
ほんのりと頬を上気させている。