【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第16章 Light A Fire In The Heart ※
重いドアを開けて中に入るとそこはとても暗く、隣にいる人間の顔がようやく見える程度の明かりしか灯されていなかった。
煙草の匂いがたちこめる先に、細長いカウンターが置いてある。
目を凝らしてようやく、宿の主人がいるのが見えた。
サクラは黙ったまま奥へと進み、カウンター越しに宿主と向き合う。
「空き部屋はありませんか?」
肌が浅黒く、50代後半だろう痩せた男は、サクラの顔を不躾に眺めながらニヤリと笑った。
「ございますよ。朝までのご利用で?」
「はい」
すると今度は、後ろにいるリヴァイに目を向ける。
「随分と積極的なお嬢さんで。羨ましいですな、旦那」
そこまで言ったところで、店主は言葉に詰まった。
表の世界も裏の世界も知り尽くしているこの男が、リヴァイを知らないわけがない。
調査兵団兵士長・・・人類最強の兵士。
「これはこれは・・・すぐに気がつきませんで」
「・・・あ?」
不機嫌そうに返事をしたのを、自分の不手際のせいだと思ったのだろう。
店主は態度を大きく変えると、揉み手をしながら張り付いたような愛想笑いを見せた。
「つい先ほどまで“上”の方もいらしてたんですがね。まあ、うちをご贔屓にしてくださってて・・・さらに貴方様までこの薄汚ぇ宿を使ってくださるとは」
「薄汚ぇ、だと?」
潔癖すぎる性格のリヴァイには、その言葉が絶対に受け入れられないものだった。
少し目を離せば、雑巾でそこらへんを拭いているような男だ。
不潔な寝具の上で夜を明かすというのは拷問に近い。
「おい、汚ぇってのはどういうことだ?」
「いやいや! へりくだって言ったまでですよ、旦那。そうだ、エルヴィン様がご使用になった部屋がちょうど清掃が済んだところです。良かったらいかがですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
一刻前までエルヴィンが情事に耽っていた場所で営むというのもどうかと思うが、そもそもサクラにはその気がないだろう。
ただ夜を明かすというのも惨めな気もするが、おそらくそこがこの宿で一番上等の部屋。
ということは、一番清潔に違いない。
「じゃあ、そいつで頼む」
「どうも」
宿主は、上客が来たとばかりに喜びながら、部屋の鍵を渡してきた。