【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第15章 A Lullaby In My Heart
最初は濯ぎも、干し方もまるでなってなかった。
よくリヴァイが目を吊り上げながら指導したものだ。
だが、今ではそれなりに形になっている。
「ほう」
日当たりの良い場所に両端をピシッと揃えて干してあるシーツに、リヴァイは目を細めた。
なかなかじゃねぇか。
完璧とは言えねぇが、まあ合格点だ。
だが、肝心のエレンの姿が無い。
「あの野郎、どこへ行きやがった」
まさか、自分に何も報告せず、ハンジの実験に付き合っているんじゃないだろうな。
苛立ちながら裏口へ回った時だった。
「・・・!!」
鼻をくすぐる、花の香り。
その瞬間、胸が締め付けられるように軋み、呼吸ができなくなる。
「クソ・・・」
何故だ・・・
何故、この香りが・・・
強い目眩を感じながら、香りがする方へと進む。
調理場を抜け、食堂に行くとよりいっそう強くなった。
そして、その先にいたのはエレンだった。
「あ、リヴァイ兵長」
何かの作業をしていたようだが、リヴァイに気づくとイスから立ち上って敬礼をした。
食卓の上にはたくさんの青い花が敷き詰められている。
「エレン、お前・・・それ・・・」
怒られると思ったのかエレンは少し怯えたような顔を見せ、おずおずと1本の花をリヴァイに向かって差し出した。
「ラベンダーです、兵長」
「それは知ってる。何故そんなものがここにあるんだ」
リヴァイがラベンダーを知っていたことが意外だったのか、エレンは目を丸くしながらもふわりと微笑む。
「森で見つけました。これを乾かして、小さな袋に詰めようと・・・。シーツに添えておけば、良い匂いがするかと思って・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「兵長・・・? 気分が悪そうですが・・・この匂いが嫌いでしたか?」
リヴァイは小さく首を横に振った。
それがやっとだった。
この花の香りは、残酷な記憶を蘇させる。
思い出すにはあまりにも優しくて、あまりにも悲しい記憶。
まだ自分はそれに耐えられそうもない。