【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第15章 A Lullaby In My Heart
「そもそも、恋愛だのと言ってられるような生易しい環境で育ってないからな」
一時期などは、その存在が都市伝説にすらなっている殺人鬼と生活を共にしていた。
あの頃の自分と比べれば、ずいぶんと変わったような気がする。
「俺はお前に出会ってから、この世界がただ汚いだけじゃねぇ、臭いだけじゃねぇってことを知った」
それまでは、ずっとドブのような空気しかここにはないと思っていた。
どこまで行っても、荒野と変わらない景色が続いていると思っていた。
「ゼラニウム、ラベンダー、桜、お前が教えてくれたものは全部綺麗だと思った。今だってそうだ」
満天の星空を見上げ、まばたきをひとつする。
「ずっと地下にいたせいか知らねぇが、星がこんなに綺麗だとは知らなかった。お前がいなかったら俺はここに来なかったし、こうして空を見上げることもなかったと思う」
サクラ・・・
お前の笑顔はすべてを彩る。
だから俺は、お前がいるこの世界を守りたい。
リヴァイはサクラの頭を軽く撫でてから、髪をくしゃっと鷲掴みにした。
「で。お前はどうなんだ?」
「私ですか?」
「ああ。お前の初恋はいつだ」
“別に気を使う必要はねぇぞ”と小さく続ける。
そんなリヴァイに寄り添いながら、サクラは口を開いた。
「・・・小さい頃、叔父のお嫁さんになるのが夢でした。それが初恋だったのかもしれません」
「お前、おっさん好みだったのか?」
何を想像したのか分からないが、微妙な顔をしたリヴァイに、声をあげて笑う。
「叔父と言っても、生きていれば今ごろリヴァイ兵長ぐらいの年齢ですよ。お兄ちゃんって呼んでいたぐらいですから」
「生きてれば・・・ってことは、死んだのか」
サクラは少し間を置き、そして口を開いた。
「はい、“殺され”ました」
“誰に”とは言わない。
思い出すにはあまりにつらく、語るにはあまりに苦しい過去。
ただならぬ空気を読み取ったのか、リヴァイもそれ以上踏み込んで聞くことはなかった。
「でも、所詮は子どもの“好き”でしたから・・・男性として意識してませんでした」
サクラは夜空を見上げながら、昔母親が教えてくれたことを思い返した。