【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第13章 Forget Me Not ※
「なんだ、お前はもう“死んだ”目をしてる。わざわざ俺が殺すまでもねぇな」
私の目を見たその人は、薄っすらとヒゲを蓄えた口元に、無慈悲で歪んだ笑みを浮かべる。
「気に入った。俺のナイフをやろう」
子どもの手には大きすぎるナイフが、足元に投げられた。
「こうやって喉を“切り裂く”んだ。ヘタならヘタなほど痛ぇから気をつけろよ」
親指で喉元を真一文字に切る真似をした。
そうか・・・
そうすれば、餓死を待たずとも死ねるのか。
私は頷いた。
死神は私がナイフを拾うのを見るや、踵を返して何処かへ行ってしまった。
いったい誰だったのだろう。
憲兵とは違うようだけど・・・
少しだけ、あのゴロツキさんと似ていたような気がする。
姿形というよりは、空気が似ていた。
でも、ゴロツキさんよりずっと暗く、冷たい感じがした。
目深に被ったフードから覗いていた横顔を思い出す。
命を助けてくれたけれど・・・
お洋服をくれたけれど・・・
泣いていい場所を与えてくれたけれど・・・
ごめんなさい、ゴロツキさん。
今の私には、死神がくれたナイフの方が必要な気がします。
“ あなた! サクラの姿が見えないの! ”
“ 落ち着け。衰弱していたから、そう遠くへは行かないはずだ ”
“ 憲兵が・・・きっと憲兵がサクラを連れて行ったのよ! ああ、私のサクラ! ”
裏口からそっと家を出た時、母の金切り声が聞こえた。
あんな声は初めてだった。
「うう・・・」
涙が溢れてくる。
すぐにでも、お母さんごめんなさい! と胸に飛び込みたい。
でも、ダメだ・・・
私は、自分が気持ち悪い。
お兄ちゃんを殺しておいて、自分だけ温かいご飯を食べて、フカフカのベッドで寝ることはできない。
自分が許せないし、自分が憎くて堪らない。
こんな感情は今まで持ったことがない。
「殺してやる」
私自身を。
それが・・・
「当然の報い」
9歳の胸には耐えられないほどの怒りと憎しみは、いつしか狂気となっていた。