【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第13章 Forget Me Not ※
あのネックレスが憲兵に見つからなければ。
私がブラウスを汚さなければ。
私が塀から落ちなければ。
私が氷菓子を食べなければ。
私がネックレスをしなければ・・・
「お兄ちゃんは死なずにすんだ」
ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、私のせいだ。
心の中のドロドロが重い。
苦しいし、気持ち悪い。
私は母の育てた花壇の真ん中でうずくまった。
色とりどりの花が、頬を柔らかく撫でてくれる。
「サクラ」
母が私の名前を呼んだ。
でも、顔を上げることができない。
「サクラ、自分を責めないで。あなたは何も悪くないのよ」
「とても怖いことがあったのね? でも、もうだいじょうぶよ」
反応を見せない私に、母は何度も何度も話しかけた。
「お願い、スープだけでもいいから口に入れて・・・このままじゃ、サクラが死んじゃう」
憔悴しきり、懇願してくる母。
初めて、その顔から微笑みが消えていた。
唯一、幼い弟だけが母の背中で安らかな寝息をたてていた。
母につらい思いをさせているのは悲しい。
だけど、私は分からなかった。
大好きなお兄ちゃんを死なせてしまった事をどう処理していいのか。
サァッと、風が吹く。
夕陽が燃えるように赤い。
どうしよう。
家に入りたくない。
そう思っていた時だった。
「お嬢ちゃん」
一瞬で、心臓が底まで凍りつくほどの恐怖が蘇る。
「あ・・・」
震えながら顔を上げると、そこには黒い帽子を被った背の高い男が、柵の向こうから私を見ていた。
頬は痩せこけ、体も細身。
そして、温情の欠片もない残酷な瞳をしていた。
「まだ死んでなかったのか」
「・・・・・・・・・・・・」
“ お前が“お兄ちゃん”を死に追いやった。死をもって償わなきゃな ”
死・・・?
そうだ。
罪もない尊い命を死に追いやった者は、同じ死で償わなければならない。
私は、死神のような男をもう一度見上げた。