【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第10章 Come To Me, My Love
“俺の部屋で待ってろ”
夕食の時も、
友人と談話する時も、
髪を梳かしている時も、
リヴァイのその言葉がずっと頭の中で響いていた。
預かった鍵は、ポケットの中で質量以上の重さを感じさせている。
夜、一人で薄暗い廊下を歩きながら、サクラは石造りの窓から空を見上げた。
雲が厚く、月は姿を隠している。
リヴァイ兵長は、だいじょうぶだろうか・・・
自分に桜を見せるためにしてくれたことが問題となって、審議にまで発展してしまうなんて・・・
リヴァイを守りたくても、下級兵士の自分は何もできないのがつらい。
やはりリヴァイとの間には、絶望的な距離があるように思えてならなかった。
時計の針は、10時を指している。
恐らく、リヴァイが帰ってくるのはどんなに早くても深夜になるだろう。
それまで主のいない部屋にいても良いものだろうか・・・?
この廊下を奥へと進めば、上官の居住棟となっている。
一瞬足が止まりかけたが、すぐに昼間リヴァイから言われたことを思い出した。
“俺に遠慮するな、サクラ”
ああ、そうだ。
リヴァイ兵長は、“部屋で待ってろ”と仰ったではないか。
あの人はきっと嫌な思いをたくさんして帰ってくる。
温かく迎える人間が必要だ。
サクラは意を決して足を前に進めた。
少し行くと、リヴァイの名が刻まれたプレートが差し込まれたドアを右手に見つける。
預かった鍵を鍵穴に差し込むと、どこにも引っかかることなくすんなりと回った。
ガチャリと錠が開く音。
そういえば、男性の一人部屋に入るのは初めてだ。
ドアのノブをひねりながら、そんなことに気づき、無性に恥ずかしくなった。
「やっぱちらかっていたりするのかな」
洗濯物とか散らばっていたりして。
帰ってくるまで掃除をしておくのもいいかもしれない。
そう思いながら、ドアを開けた瞬間。
それは、あまりにもリヴァイという人間を理解していない考えだということを痛感した。