【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第10章 Come To Me, My Love
ベキッという、嫌な音が響く。
勢い余ったオルオは標的までの距離をうまく測ることができず、回転したまま木製の人形に体当たりをしてしまった。
「・・・・・・・・・」
やっぱりね・・・、といった空気が流れる。
人間離れした三半規管と、空間把握能力がなければ不可能な技だ。
オルオごときにできるわけがない。
「お・・・おかしいなぁ! 兵長、この前はできたんですよ! マジっす!」
「・・・ああ、その時に見てやれなくて悪かったな・・・」
逆さまにぶら下がったまま、鼻血をダラダラと流すオルオが哀れすぎて、さすがのリヴァイも優しい口調になる。
「もっかいやるんで見ててください! 次は必ず成功させるんでっ」
そう言いながらアンカーを外して降りてきた。
早くも左目が腫れ上がっている。
「イヤ、いい・・・もう少し成功率を上げてから見せてくれ」
「じゃあ、コツを教えてください!」
オルオがリヴァイに詰め寄ると、他の兵士達も一斉に集まってきた。
「俺も! 兵長、俺にも教えてください!」
「私にもお願いしますっ」
「お前ばかりズルいぞ、オルオ!」
結局、先ほど以上の人だかりがリヴァイの周りにできてしまった。
これでは、リヴァイと話すことは無理だ。
サクラはため息を吐いた。
「わかった、じゃあ今度訓練の時間を設けてやる。だから、今は・・・」
目の端で、離れた場所にいるサクラを見る。
ずいぶんと久しぶりな気がした。
「・・・今は、それぞれの練習に戻れ。俺に構うな」
やっと時間が取れたんだ。
少しだけでも・・・
リヴァイが兵士を掻き分け、手押し車が置いてある所へ行こうとした瞬間。
そこに座っているサクラが、ふと顔を上げた。
そして満面の笑みを浮かべる。
だが、それはリヴァイに向けられたものではなかった。