【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第1章 Never Despair
3年前の845年。
サクラの生家は、ウォール・マリア南端のシガンシナ区にあった。
忘れもしない、夕陽が美しかったあの日。
100年間、その存在を潜めていた巨人が突然現れて、全てを奪い去った。
当時、14歳だったサクラは、幼い弟の手を引いて逃げた。
父親は仕事に出ていたし、逃げ遅れた母親は醜い顔をした巨人の餌食となった。
死ぬのが怖い。
死ぬのが怖い。
幼い弟の足は遅い。
しかし、抱えて走れるほどの力は自分には無い。
こんなに走っているのに、巨人はもうそこまで迫っている。
どうして、こんないっぺんに巨人が現れるの?
私たちがなにをしたというの?
助けて。
すると、目の前にひとりの駐屯兵が現れた。
良かった、これで助か・・・
「こっち来んじゃねぇ、ガキが!」
「え・・・?」
駐屯兵は、サクラを助けるどころか、手を引いていた弟を掴むと、巨人の方へ放り投げた。
幼い弟の小さな体が、燃えるような夕陽のせいで真っ赤に染まった。
弟に反応して、サクラと駐屯兵から注意が逸れた巨人。
小さな体を掴むと、非情な笑みを浮かべながらバリバリと貪り喰った。
それからのことはよく分からない。
地獄絵図だったことだけ覚えている。
自分だけが助かるために、他人を踏み越えていった人間。
自分の乗り込む場所を作るために、先に船に乗っていた他人を撃ち殺した人間。
自分さえ助かれば、他人の命など知ったことではない。
それが人間なんだ。
サクラの目に涙が浮かんだ。
そして、その年・・・
サクラは兵士となるため、訓練兵団に入団した。
巨人を倒すため?
違う。
もう二度と、人間が人間性を失わなくても済むように。
巨人に捕食された母、生贄となった弟、そしてついぞ再会することの無かった父に誓った。