【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第8章 Beneath A Gentle Shower ※
「これは“貸し”だ。必ず返してもらうぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
屋上といっても、そこまで高い建物ではないのでお世辞にも綺麗な景色とはいえない。
それでもなぜリヴァイはじっと眺めているのか。
そもそも、この男は壁に囲まれたこの世界をむしろ憎んでいる。
しかしそれも変わろうとしているのか。
「リヴァイ、覚えているか? 俺がお前を調査兵団に勧誘した時のことを」
「・・・勧誘だと?」
“私と取引をしないか”
「調査兵団に入るか、牢獄かの二択しか無かっただろうが。何が勧誘だ」
「そうだったかな」
「トボけやがって・・・泥水まで飲まされたのは、ありゃ俺の幻覚か?」
「あの時の俺は“切り札”を持っていたからな。多少は手荒な真似をしたかもしれん」
「・・・切り札・・・」
その時、リヴァイの瞳にかつての仲間の顔が浮かび上がった。
“じゃあな!”
“助けて、兄貴!”
自分が殺したも同然の、仲間達。
最期の瞬間をどうして忘れることができようか。
「俺は、彼らの命という切り札を持っていたから、お前を掌握できたといってもいい」
「あいつらが死んでからも、俺はてめぇの望むようにやってきただろうが」
「今まではな」
エルヴィンは持っているグラスを揺らした。
氷同士がぶつかり合う音が響く。
「しかし、これからはどうかな」
「・・・・・・・・・・・」
「もし、お前とブルームが無事に遠征から帰ってくることができたら、その時は・・・」
サクラの名前に、それまで能面のようだったリヴァイの表情に変化が現れる。
「ブルームを切り札にさせてもらう。それが“貸し”への代償だ」
出会った時は、分隊長とゴロツキ。
今は、調査兵団13代団長と兵士長。
その二人の視線が交差する。
「・・・サクラをどうするつもりだ?」
「それは、お前がブルームをどうしたいかによる」
エルヴィン・スミス。
あれから数年たっても、この男の本心を読むことができない。