【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第8章 Beneath A Gentle Shower ※
それからどのくらい歩いただろう。
突然、それまで溢れていた木の深緑が消え、視界が開けた。
一瞬、空が広がっているのかと思った。
でもそれが空でないことをすぐに認識する。
視界は開けていなかった。
視界が埋め尽くされていたのだ。
幾千もの、美しい薄桃色の花びらで・・・
「リヴァイ・・・兵長・・・・・・これは・・・」
呼吸が・・・止まる。
遠い過去に、この光景を見たことがある。
空いっぱいに広がった枝に咲く、満開の花。
風が吹くとヒラヒラとその花びらを舞わせる。
地に落ちて柔らかな色の絨毯となる。
「“その花が咲く木の前に立つと、空も、風も、大地も、すべてその色に染まる”・・・そうだったな?」
サクラの目から大粒の涙が零れる。
「これが、お前が話してくれた“桜”だろ?」
“その花の名は、桜といいます”
花びらが舞う先に、父と母、そして弟の笑顔。
失ったと思っていた。
もう二度と・・・二度と、この光景は見れないと思っていた。
「・・・はい・・・・・・」
そう・・・思い出した。
この場所に間違いない。
幼い頃、一度だけ両親に連れてきてもらった。
一年に一度、ほんのわずかな時間だけ咲き誇る花の名所。
「・・・どうして・・・ここまでして・・・・・・」
巨人の領域となったこの場所まで、命を懸けてまで・・・
すると、リヴァイは体を震わせているサクラを、背中から強く抱き締めた。