【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第2章 Light Behind the Clouds
ハンジ・ゾエという人物には、驚かされるばかりだった。
分隊長とは思えないほど気さくで、上官であるはずのエルヴィンにまるで友達のように接している。
察するに、ハンジ班はどうやら巨人の生態調査が主な仕事のようだ。
ウォール・ローゼ西端への道中、ハンジは徒歩で移動する新兵達の速度に合わせながら馬を操り、延々と巨人について語り明かしていた。
そして、それは野営地でも同じで、食事を取る暇も、寝る暇も与えられずにサクラ達は巨人についての説明を聞かされ続けた。
悪く言えば、“空気”を読まない無鉄砲な人物なのかもしれない。
しかし、長く一緒にいるにつれて、それだけではなく気配りもできる人だということを知った。
目的地に到着し荷をほどいていると、ハンジが美しい雌馬を引いてサクラの元にやってきた。
「はい、これが君の相棒だよ、サクラ」
ここに着くまでの間、最後までギブアップせずにハンジに付き合い続けたせいか、気に入られたようだ。
分団長直々に馬を連れてきてくれた。
憲兵や駐屯兵とは異なり、調査兵団では新兵にも馬を支給される。
壁外ではなくてはならない移動手段だからだ。
「名前は何がいいかな?私はこれでもけっこう名付けが得意なんだけど、もし自分でやりたければ君がつけるといい」
「ありがとうございます!しかし、戦地では自分の足となってくれる大事な馬、自分が名付けたく思います」
サクラは雌馬を見上げた。
なんと美しく、優しい目をした馬なのだろう。
毛並みが良く、引き締まった体をしている。
「シェリー」
何もないところから、急に思い浮かんだ名だった。
でも、音の響きが気に入った。
それを聞いたハンジも目を細める。
「シェリー、か。うん、良い名だ!サクラをよろしく頼むぞ、シェリー」
その他の新兵達にもそれぞれ馬を割り当てられている。
早く乗りこなせるようにならなければ。
そう思い、シェリーの鼻先に手を近づけた時だった。