第8章 セブタン島
61.プール付きホテル*
「お医者さまはいませんか!?」
観光街へと向かう途中、青い顔で呼びかける女の声には足を止めた。
「……俺を見るなよ、」
「見えないよ」
屁理屈をこねるの言いたいことはわかっていたが。
「今は寄り道したくない」
「病気で苦しんでる人がいるみたい。誰か助けてって言ってるよ」
耳を澄ませて、はローには聞こえない余計な情報を伝えてくる。
深々とため息をついて、ローは人だかりに割って入った。
「診せろ。俺は医者だ」
胸を押さえてうずくまっていたのは、小太りの貴族だった。いかにも成金という風情で、太い指のすべてに大きな宝石のついた指輪がはめられている。
「心臓の近くの太い血管が詰まりかけてる。……脂っこいものの食い過ぎ、葉巻の吸いすぎだ」
「な、治せるのか? 侍医にはもうできることはないと言われた。だから最後に豪遊しようとこの島に来たんだ」
ひょっこりと様子をうかがいに来たをちらりと見て、ローは「あり金全部で治療してやる」と請け負った。
「金ならいくらでも払う。た、頼む、死にたくない。娘がいるんだ。まだ死にたくない」
父親に似た小太りの娘が、心配そうに父のそばに寄り添い、すがるようにローを見つめた。
「わかったからしがみつくな」
いま太って脂ぎった中年に抱きつかれるほど嫌なことはなく、ローはすげなく患者を引き剥がし、遠慮なく能力でぶった切った。
半分にされた父を見て娘が悲鳴を上げる。
「猟奇殺人鬼――!!」
「うるせぇ。医者のオペを邪魔するな」
ことさら手荒に処置をして、ローは貴族のあり金すべてを巻き上げた。さながら追い剥ぎだった。
「長生きしたけりゃ健康的な食事と生活を心がけさせろ」
青い顔で、こくこくと娘は頷いた。