第7章 吸血ネズミ
「ふあ……」
いま一番うしろめたい相手が、あくび混じりにドアを開けて甲板へとやってきて、思わずローはぎょっとした。
「キャプテン? 早いんだね」
「こそ」
声がこわばるローの異変にも気づかず、まだ眠そうなは「うーん」と暗い顔をした。
「ちょっと怖い夢、見ちゃって」
「噛まれたのか!?」
反射的に体が動いての指や手を確認したローに、はびっくりした。
「ベポに? 酔っててもそこまでひどくなかったよ」
当のベポは昨夜から甲板に置き去りにされて、まだ寝ていた。鼻提灯を浮かべて、全然起きる気配がない。
「ベポじゃない。ネズミだ」
「え、ネズミがいるの!?」
鳥肌を浮かべては飛び上がった。心底嫌悪しているような様子に、ローは心なしほっとした。飼いたいとに言われたら大半のものは許可してしまいそうだが――人間の男をのぞく――、ネズミだけは絶対に嫌だった。
「ネズミは嫌いか?」
「うん。餓死しかけた時に、かじられたの。追い払ってもずっとそばにいて、死ぬのを待たれてるみたいですごく嫌だった」
鳥肌を振り払おうと、はごしごしと腕をこする。思わず抱きしめそうになるのを我慢して、「もう全部駆除した」とローはを安心させた。
「本当に? もういない?」
「ああ」
ほっと息を吐いて、は「ベポはかじられてないかな」と寝ているシロクマを確認し始めた。
「んん、おはよう。ガルチュー」
「ガルチュー。ベポ、ネズミに噛まれてない?」
「ううん? いい夢見てたよー! かわいいメスのクマとデートする夢」
(噛まれた……のか?)
とりあえず後で診察室に呼ぼうと思いつつ、にネズミの特性を説明するのはものすごく嫌だったので、ローは知らないふりをした。