第5章 密航者
「マダムから伝言よ。困ったらいつでもを引き受けるって」
「そりゃどうも。世話になったと伝えてくれ」
情事を交わした色っぽい雰囲気は微塵もなく、両者は火花を散らした。
しかしケンカをする気まではなく、ローはさっさと船に乗り込んだ。
「行くぞ、ベポ……じゃなくて、豚」
「キャプテン、わざわざ言い直さないでよー!」
「体重戻るまではお前は一番下っ端だ。ゴンザにも敬語使え」
「えー!!」
そして船は出航した。次の島を目指して。
◇◆◇
「ベポ、お腹たぷたぷ~。何が入ってるの?」
「うーん、お肉?」
「非常食? ベポはペンギンよりおいしそうね。シロクマ味ってどんな味かな」
ベポの腹を撫でるのが気に入ったみたいで、はずっと撫で続けている。ならいざとなったら本当に食べそうだ。「ベポごめんね。私ベポの分まで生きるよ」と泣きながらノコギリで解体する姿が浮かび、ローはじゃれ合う二人を微笑ましく見ることができなかった。そんなは一生見たくない。
航海は順調だった。一度人食いサメの集団に追われたが、ベポをエサにして船長が切り刻んだ。
殺人を好まない医者であるものの、トラファルガー・ローは動物にあまり優しくない。今はベポもふくめて。
「おかしいな……キャプテン、昼の残りのおにぎり食べました?」
首をひねりつつ、昼食の片付けをしていたペンギンがブリッジにやってきた。
「ああ? 食にいじきたねぇどこかのシロクマと一緒にするな。どうせベポが食ったんだろ」
「俺じゃないよー!」
ダイエットをすると言いつつ、おにぎり五個を完食したベポは確かに満腹だろう。
はもともと食が細いし、
「食べたやつは素直に手ぇ上げろ」
「食べてねぇって」
「俺でもないですよ」
という確認をシャチとゴンザにして、ペンギンはまた首を傾げた。
「船倉のお客さんじゃない?」
の一言にローはぎょっとした。正直その話はしたくない。