第4章 白竜の彫師
「これがグリ……」
「クリな。焼いたら焼き栗になるんだ」
翌日。刺青を彫りに行く前に、2人は焼き栗の屋台に寄った。
「クリって何?」
「山に生える……木の実? 形はウニに似てて――」
言ってローはハッとした。に白けた顔で見られる。
「キャプテンなんでそんなにウニが好きなの」
「好きじゃねぇ!!」
「ウニに似た木の実とか、私のことからかってるでしょ」
「からかってない! 本当にそういう形してんだよ」
袋に入って渡されたホカホカの焼き栗に、はグロテスクなものでも見るような目を向ける。
「じゃあこれ、クリの脳みそなの?」
ぶっと焼き栗の屋台の店主が吹き出した。気持ちはよくわかる。
「脳みそじゃない。木の実だって言っただろ」
「形はウニに似てるけど木の実とか意味わかんないよ」
「俺に言うなよ。食べたいって言ったのだろ」
「いい匂いしたから……でも脳みその木の実とかちょっと――」
「脳みそじゃない! いいから食べろって。が好きな味だから」
殻ごと口に入れようとしたを、慌ててローは止めた。
「殻は剥いて、中だけ食べるんだ」
「殻? でもトゲトゲしてないよ」
「トゲトゲの中に殻のついた木の実が入ってるんだよ」
剥いてやって、ローは「ほら」との口に放り込んだ。
「……!!」
最初は不安そうな顔をしていたは、一瞬で目を見開いた。
「甘い……っ」
「の好きな味だろ」
「うん。ウニすごい」
「クリだ!」
「キャプテン、もっと剥いて」
「自分でやってみろ、難しくないから」
きのう座ったベンチにを座らせて、ローは剥き方を教えてやる。
「殻はこれに――」
「キャプテンにもあげる。熱々でおいしいよ」
自分で剥いた最初の一個を差し出され、ローはの指を噛まないように食いついた。人の食べ物をもらうのはダメだと言うくせに、おいしいものがあるとは共有しようとする。