第2章 No.9
ホルマジオは子供を引き連れ、薄暗い廊下を通り、階段を登る。
ネズミのフンや昆虫の死骸が床のあちらこちらに散らばっており、少し不快な気分になる。
列の後ろにはイルーゾォがついていて、子供を後ろから見張っていた。
(ハァ。ホルマジオと学校の先生まがいのことをやるとはァ。こんな任務初めてだぜ)
パッショーネに刃向かう野郎共には命を持って償ってもらう。
その肉と血を散らばらせ、変死体として処理されるよううまく細工をする。
そんな風に泥をすするようなことばかりをやってきたが、今回はメローネの言う通り、異例だ。
ガキを助ける結果になるとはな…
イルーゾォはらしくないことをこれからする自分たち暗殺チームに、気持ち悪い違和感を覚えていた。
しかしその一方で、心のどこかで、少し誇らしく思う自分がいた。
ホルマジオとイルーゾォの誘導で、子供たちは最上階へ運ばれた。
「来たか」
すでにそこにはリゾットがいた。
子供を一番上の5階にしばらく置き、誘拐犯をおびき寄せると提案したのは、彼である。
「ここまで来るとき、何か気になることはあったか?」
リゾットはホルマジオとイルーゾォに聞く。
「いや?小動物の死骸やら排泄物やらで、まさに廃墟って感じだったぜ」
イルーゾォも同じ意見だ。
「そうか。ならいいが…」
「アンタは何かあるのか?」
「いや。ここを選んだからには、些細なことにも気を配る必要があるからな。廃墟にも危険があるやもしれん」
空き家などずっと手付かずだった建物は、ジャンキーやらルンペンやらが住み着いていることが多い。
しかもこれからここで誘拐犯を皆殺しにするから、もし目撃者でも出せば、殺さなくてはいけなくなる。
余計な死体は増やしたくない。