第2章 No.9
急に素直になったイルーゾォに疑問を抱きながら、メーラは引き剥がして距離を取る。
ギロリとイルーゾォを睨む。
「追いかけたりしねーよ。お前はここから逃げてェんだろ?とっとと行った行った」
しっしと手を振る。
「……」
メーラは足を引きずってその場を後にした。廊下の突き当たりを曲がり、見えなくなった。
「……ハァ。「放っておけ」って正気か?いくらアンタでも…」
イルーゾォは振り向いたが、そこにはもう、人の気配はなかった。
(何だ……急に大人しくなって…)
メーラは乱れた前髪を整えて、目元をすっぽり覆って、元に戻す。
(どうする。私の能力の一部を見せてしまったのは、非常にマズい。何とかここを去らねば……)
大分、状況がややこしくなってきた。なぜ、パッショーネの人たちがかぎつけてきた?
あそこのボスなら、たとえ子供だろうと組織の障害となる者を殺すだろう。一刻も早く痕跡と証拠を消さなければ。
(とにかく、あの場所へ……)
血痕が続いている。後を付けられるのは容易だ。だがやはりおかしい。素直に見逃すなんて……
メーラはマフラーに触れる。
(あった……)
向かった先は、庭の一角。そこには鉄骨と廃車の墓場があった。
さっきホルマジオが誘拐犯を始末するのに使った跡だ。
骨と肉が混ざり合った死体と血が散らばって、車をコーティングしている。
メーラは自分の頭に手を置き、鏡の世界の外にいる自分のスタンドとコンタクトを取る。
(私のそばにいなければ、“あの能力”は使えそうにないな。何とかここで巻かなければ……)
メーラは小さな体で廃車を一つ一つ調べた。
中に潜り込み、運転席と助手席の真ん中を手当たり次第に確認した。そこは、ラジオが付いてある場所だ。