第2章 No.9
「…私を…殺してください……いっそのこと」
「!」
死んでいるような目がリゾットに向けられた。
「お兄さんたちなら…できるでしょ?お金は払えないけど……そうだ。私を革製品にすれば、1億リラは…」
無理に歪んだ笑顔を作る。
(コイツ。人身売買されそうなところ助かったってのに、今度は自らを売るか?)
すると、ずっと無口で動いてなかった日本人の子供が前に乗り出して、立ち位置が逆転した。
万が一にもリゾットが言われた通りに危害を加えられることを考え、アルビノの子を守るように後ろに引かせた。
そしてまた、ご主人を守る番犬のように警戒心を醸し出す。
(まさか、こんな小さな子供に依頼されるとは思わなかった。「自分を殺してくれ」なんて、少なくともパッショーネにはそんな奴は……)
お菓子をねだるとか、本を読んでとか、そんな次元の話じゃあない。
荒事の後にまさかこんなことになるとは、誰も想像はつかないだろう。
リゾットはそれとは別で、心の奥底に突っかかる何かを感じていた。
本人の意思にそぐわず、無理やり命を奪われるのではなく、自らが望んで死を選ぶ。
そんなこと、許されるわけがない。
その行為を子供がしていることは、絶対に黙認できない。
殺す気はさらさらないが、その動機が気になり聞いてみた。
「なぜ死にたい?」
「……もう、私のせいで……誰かが死ぬのは…見たくない。ただの骨になって、普通になりたい。それだけなんです」
運命とは残酷なもので、アルビノの特異体質を生まれ持ってしまった子供にとって、“特別”とは“死”を意味していた。
何度も競売にかけられ、何度も純潔を奪われ、何度も血と骨が貪り合う姿を見てきた。
利益を追い求める大人たちの汚い争いを、毎日ニュース番組を見るくらいの頻度で目にするのは、とても耐え難いことであった。
それが、10歳の子供であれば、なおさらのことである。
「シスターは……私を外の世界から…守ってくれた。なのに…一晩で全てが変わっちゃった……もう…誰にも…触られたくない」
死んであの世に行って、誰の目にも入らないくらい遠くで幸せに生きたい。
それが、彼女の願いだった。