第2章 No.9
「どうやって抜け出した?」
リゾットが質問しても、疲れた様子で何も答えない。
壁に手を当てて自分の体重を支えるほどに疲労している。演技ではない。
リゾットをずっと睨みつけ、一歩一歩ゆっくりと後ろに下がる。
「メーラ!もうやめて…!これ以上は……!」
一方でアルビノの子は、黒髪の子の背中に手をかける。
イルーゾォが何らかの理由で、独断で出ることを許可したのか?
窓ガラスを垣間見たが、イルーゾォはいない。
(脱走したのか?しかしどうやって?イルーゾォは仕事を疎かにするような奴じゃあない)
「もうやめて」というのは、脱走を企てたのは黒い方らしいな。
とにかく上に連れて行くか。
「来い」
アルビノの子は日本人の子を庇うように前に出て、両手を広げて守る姿勢を見せる。
「お、お願いです!私たちを…帰してください!」
声を張り上げられ、手を止めた。
「助けてくれたことには感謝しています。ただ、私たちは…ただ、帰りたいだけなんです!シスター達は今頃、修道院で私たちを心配しているはずなんです。だから……」
涙目になって必死に訴えた。
成り行きがどうであれ助けた結果にはなったが、ギャング相手に助けを乞うとは。
それほど追いつめられているということだろうか。
「……知らないらしいな。お前の言うシスター含めた修道院の関係者全員は、殺された」
リゾットは懐に入れておいた新聞記事の写真を落として、見せた。少しの情けで情報を与えた。
任務は終わったから、それくらいはいいだろう。
「え、そ、んな……嘘」
へたりと座り込み、白い両目から涙がこぼれ落ちてきた。