第1章 夜明け
『昨今稀に見る名一座』を率いる座長はまた、己たちの芸能に、いっそ執念ともいえるべき誇りと自負を持っていた。
いくら凶王とはいえ、芸事を解さぬ者のために、そして、道理なき理不尽のために、何一つこの道を曲げてなどやるものか、と
△△座は正面切って凶王三成の膝元ともいえるべきここ大坂で、今まで通りの演目を上演し続けてきたのである。
それがまた、さらなる評判を呼び、その評判が皮肉にも、凶王の耳目に届いたことで、
△△一座はとうとう、人々の懸念通り、凶王の裁定を受ける憂き目となったのだった。
「皆にはすまないことをしたと思っているよ」
座長が静かにそうつぶやくと、ざわついた広間は一瞬にしてしんと静まり返った。
再び、一同の注目が座長の上に集中する。
「私の妙な意地で、とうとう凶王に目をつけられちまった。」
おとなしく、伝統能だけを細々と演じていれば。
そう思う者も、少なからずいるのだろうと思いながら、座長は言葉を継いだ。
「色々考えてみたけれどね。私たちはやっぱり、しがない踊り子だ。」
静まり返った広間の中は、音ならぬ戸惑いに溢れている。
石田三成の御前で、猿楽を披露せよとの命が下ったのは、十日ばかり前のことだった。
それがこの一座にとっての死刑宣告であることは、誰の目にも疑いようのない事実だった。
断れば、当然叛意ありとして、一門はその場で取り潰しとなっただろう。
かといって、受けたところで、△△座の演出自体を嫌う三成の不興を買うのは明らか、
遠からず一座は解散させられることは目に見えていた。
――座長は、黙して、その命を受けた。