第4章 月と踊り子
●●の舞は、彼の心のある部分を、一瞬のうちに奪った。
それは、三成が頑なによろい続けてきた、心の最奥にひそませていたものだ。
あるいは、この命よりも奥深くに隠していた感情に、
それも、剣を取るでも、弓を引くでもない方法で迫ったのは、
この愛らしさをそのまま切り取ったような少女だった。
一度目にしただけで、興味を抱く、という感情さえ通り越してしまった。
傍に寄せ、その唇が何を語るかを聞きたかった。
その目が、どのように自分を見るかを知りたかった。
しかし、今三成の目の前には、
ひどく居心地が悪そうに座り込む娘が一人いるだけだ。
あの時、舞台の上に立ち舞った●●は、
もはやこの世ならぬ場所から迷い込んだ神性のもののように見えた。
あまりにかけ離れたその姿は、三成の心をひどく混乱させる。
このままここで、刑部の予想した通りに、
この娘の体と心に、恐らく初めてであろう「男」と、
一生消えない傷を共に刻み込んでやりたくなる荒々しい衝動。
一方で、美しいからくり人形を愛でるが如く、
指一本触れることなく朝までただ時を分かち合っていたい、という透明な感情。
行灯の明かりと月明かりに、半々に身を浸した●●は、あの晩とはまた違う、
ひどく儚い神々しさに満ちていた。
人の世の空気にあてられて、今にも消え入りそうな弱弱しい別世界の生き物。
また、何か衣をひるがえしたように変貌するのだろうか。