第3章 幕間
「もう一度お近くで、お前の舞を見たいと仰っているそうだ。」
それはもう、是非にとの御所望に御座りまするゆえ。
慇懃に熱っぽく語る使者の口調は、一方で断ることなど許さぬ、という明確な意思を秘めていた。
座長と、兄弟子は顔を見合わせ、瞬時に、それはいけない、という危険を察知した。
「いかに三成公直々の御所望と致しましたところで、
●●はなにぶん、平素の行儀もわきまえぬ小娘に御座りまする、
いかなる粗相こそあれど、到底三成公の御心に叶うべき娘では御座りませぬ、
何卒、何卒ご容赦くださいますよう。」
二人がかりで懇願したが、使者は一向に意思を曲げなかった。
物腰こそ柔らかだが、芯は鉄のごとくに強固である。
これは、三成公よりの「依頼」ではなく、「厳命」でござるの一点張りで、
さらには最後にこう付け加えた。
「△△座の貴殿らに与えられる恩賞のほかに、特に優れた踊り手たる●●には、
御手ずから褒美を賜りたいとのこと。
これほどまでの公のご厚情、まさか無下になさる御つもりではありますまいな」
容赦なく、とどめの五寸釘を打ち込むような一言だった。
祖父は、そこまで語ると、さらに肩を落とした。
丸まった背に、隠しようのない絶望が影を落としている。
断れば、どうなるか、ではなかった。
もう断ることは、できないのだ。