第3章 幕間
座敷に戻ると、●●が長湯をしている間に、すでに布団などは取り片づけられており、
簡単な茶菓の用意が整えられていた。
祖父は●●も室内に入ったのを見計らって、辺りをうかがってから障子を閉めた。
薄暗い室内に、二人だけが取り残される。
「座長、これはいったい」
「じいさまでいいさ」
祖父の肩が、悄然と落ちているのを見て、●●は務めて丁寧にもう一度聞いた。
「おじい様、一体どうされたのですか」
その様子から、ただ事でないとすぐに知れた。
祖父は、昨夜の祝いから一転、またも明日をも知れない病人の姿に逆戻りしつつあるかのようだ。
しかし、その口調だけは、往年の名役者の名に恥じない、しっかりとしたものだった。
「――けさ早くに、刑部卿の所からお使いが来たんだよ」
それは、まだ祝いの余韻冷めやらぬ、明け方の頃だったという。
石田三成の側近中の側近、「刑部卿」大谷吉継の家臣の一人が、突如△△座の本邸を訪った。
「三成公、刑部卿ともに、昨夜の公演を激賞されているとね。わざわざお伝えに見えたそうなんだが」
慌てて体裁を整え、平伏してそれを受けたまではいいのだが、
どうも様子がおかしい、と座長の勘が内心告げていた。
その場にいたという兄弟子も、座長同様、怪訝な様子だった。
そこで、祖父は深いため息をついた。
「三成公がね、いたくお前をお気に召したそうなのだよ」
●●の目が丸くなる。
三成公、それはまさか、あの「石田三成」公のことをいっているのか?
喉につかえた言葉が、凍りついた。
瞼の裏だけに焼き付いていた、冷ややかな地の月の影が、
薄暗い座敷の中にゆっくりと伸びてくる。
「そ、れは…」