第3章 幕間
結局、酔い止めも、朝湯も、この息がとまるほどに絡まった糸をほどくには至らなかった。
ため息をつきながら湯船から上がると、そそくさと質素な普段着に着替え、
洗い髪をまとめて自室に戻ることにした。
頭痛と吐き気は消えた。
ただ胸苦しさだけは残っている。
こういうときは、いつもどうしていたか。
●●は、廊下から、彼方に見える稽古場を眺めた。
踊れば、全部消えてしまうのに。
手を、強く握りこめる。
唇を噛むと、ふやけた鉄の味がした。
身体の奥から、何かが自分を呼ぶ声がする。
目を閉じて、耳を澄ませてみる。
視界から、生きる喜びにあふれた朝の光景が、消えた。
訪れる黒い闇に、●●は問いかけた。
ねえ、私、どうしたらいい。
「●●や」
その瞬間、●●を包んでいた闇の残滓が消え去った。
振り返ると、庭先に、杖を突いた●●の祖父――△△座の総座長がぽつんと一人立っている。
お呼びですか、と答えて庭先に降りると、祖父はなぜか、●●の方を見ないように顔をそむけた。
その横顔が、ひどく疲れていることに、●●は気づいた。
居住まいを正し、呼びかける。
「どうかしたのですか、座長」
「話があるのだ」
ついてきなさい、と祖父は●●を促し、庭を横切って元の奥座敷へと戻っていった。
いぶかしく思いながら従う。