第3章 幕間
――昨夜、舞台から「月」を見た。
それは、あの夜、初めて舞台を踏んだ瞬間に見えた姿。
早鐘のようになる心臓を守るように、胸と顔を覆った小袖をそっと解いた瞬間。
●●の目の前に、生きた「月」が姿を現した。
頬杖を突いた白い面は、削いだように引き締まっている。
目の光は、鋼のよう。その体もまた、一本の刃を見るようだった。
正装にしては簡単な、戦装束のようにも見える衣装をまとい、
長い手足を、やや持て余し気味に放り出して、
鋼色の「月」もまた、●●の姿を見つめていた。
月の名は、「石田三成」と後で知れた。
その姿だけが、一瞬にして●●の中に焼き付いた。
――心臓が、跳ねた。
総毛だつとは、このことだろうか。淡い震えは皮膚の上を駆け巡り、
それが全身を一周すると、●●の体ははっきりと目覚めた。
――踊ろう。
身体は目覚めても、意識できたのはそれだけだった。
後は、何もかもを忘れ、手と足の動く限りに、●●は舞った。
空から降る月の光を浴びながら、地から差し込む月の視線を振り払うように。
その姿を思うたび、●●の胸の奥はひどく苦しくなる。
ほどいて逃げた、と思ったはずの視線は、
ふと気づけばこの胸の奥にしっかりと深く食い込んでいた。
●●は、我知らず裸の胸元を抑えた。
月が追いかけてきている。
夜の奥から。