第2章 宵待月
やがて、物語は間狂言をはさみ、後段へと流れていく。
さすがの大谷も、ここからの△△座の演出の巧妙さには舌を巻かざるを得なかった。
シテの少女が踊ってからのワキの舞手は、間狂言に入ると、まるで人が違ったように群を抜いた演舞を見せた。
最初の単調な演舞は、恐らくその単調ささえも演技の一つであったのだ。
さらに恐ろしいことに、その抜群の演舞は、彼のみならず他の舞手たちにも受け継がれていた。
いちいち出てくる役者が、相当の粒ぞろいなのだ。
一場面も出ないような端役に至るまで、一座を背負って立てるほどの芸達者が揃っている。
そこまで猿楽に興味を持っていなかった彼さえも、△△座の構成する展開、そしてその層の厚みからは、
傍の酒肴が、いたずらにぬるまっていくこともお構いなしに、終始目を離すことが出来なかった。
今や、会場は興奮のるつぼのただ中にあった。
ひそやかなざわめきが辺りを満たし、それがかつてない期待を煽れるだけ煽りつけている。
そして、見せ場の後段である。
里の女が現れて、若い僧に、
『自分はかつて、木曽義仲とともに落ち延びた、義仲の愛妾「巴」である』と打ち明け、
勇壮な武者の舞を舞う場面へと展開していく。
楽の音が、いったん止んだ。
何事かと観衆が一瞬戸惑いを見せた次の瞬間だった。
音が、爆発するように激しく流れ出す、と同時に、里の女、
――●●の姿が倍ほどにも膨れ上がった
当然、錯覚に違いないのだが、
観衆たちの目にそれは、あたかも現実の出来事のように映った。