第2章 宵待月
衝撃は、その一度では済まなかった。
変化した曲調が、緩やかに流れ出す。
舞が、その曲に乗った途端、●●の姿は、まるで別人、いや、まるで別の生き物のように変貌した。
衣が翻り、のびやかな手足が宙を舞う。
前段の舞は、燃えるかがり火が霞むほど鮮やかに、渡る夜風が消えるほど力強く、
人々から呼吸の仕方と、瞬きを奪った。
あの小さな、消え入りそうな娘は何処へ行ったのだろう。
木陰の花にも似た、怯えた小栗鼠のようなあの少女は。
同じ場所には、同じ顔と体のまま、滴るような妖艶さをまとわせ踊る、
一人の女の姿があるだけだ。
薄手の衣装が可憐に揺れ、腕や脛がわずかにほの見える度に観衆のため息が、夜気を揺らした。
刹那に儚く、刹那に艶めかしい。
それは目くるめく「女」の舞だった。
女の、女である結晶の輝きが、手足のわずかな動き一つ一つに乗って煌めいている。
男にはもちろん、尋常の女ではこのような境地にたどり着くことは不可能だ。
――それを踊り切っているのが、あの他愛もない少女なのだ。
その瞬間に、大谷は何か言い知れない「畏れ」のような物に触れた心地がした。
思わず隣の三成に振り返る。
三成はいまや口元に手を当て、やや前に身を乗り出して、食い入るように舞台に見入っていた。
みれば、そのように舞台に見入っているのは、他ならぬ三成ばかりではなかった。
目の肥えた要人ばかりを招いている御前公演に顔をそろえた、
各界の通人たちも、三成を真似たかのように皆、一様に同じ格好で舞台にのめり込んでいる。