第2章 宵待月
――旅の僧が、里の女に話しかける。
女は、小袖で顔を覆いながら、さめざめと泣いているように見えた。
その様子は、叶うなら今すぐに駆け寄って抱き寄せてやりたくなるような哀れさを湛えている。
まだか。
大谷は食い入るように娘を見つめた。
さあ、さあ早く。
早く。
――その小袖が、じらすようにゆっくりと解かれていく。
と、同時に楽の音が変わった。
小さな娘の顔が、グイ、と持ち上がる。
大谷は思わず、輿の上で一歩身を引いた。
――そこには、大谷の望むいかばかりの感情も映ってはいない。
その満面、あどけなくも輝かしい顔の上を、
△△座●●の面の上を、
何か確固とした強烈な意志のようなものが光の幕のように覆っていた。
万座の観衆が息を飲んだ。
突飛な化粧に覆われた●●の巨大な瞳が、矢弓の飛ぶが如くこちらを見抜いた。
一瞬、射られたかと思うほどだ。
大谷はほとんど反射的にその目を逸らした。
逸らした目が、隣の三成の姿をとらえた。
頬杖をついていたはずの頬が、その手から離れている。
その鬼神の瞳が、あろうことか丸くなっていることに大谷は再び度肝を抜かれた。