第2章 宵待月
皆の一つになった心が、口に出さなくても、この場の空気を染めていく。
兄弟子は、手の中でわずかに震える●●の手を、今一度強く握りしめた。
「大丈夫だ。」
●●の目が、舞台化粧こそ済ませてはいるが、まだ揺れたままの大きな瞳が、兄弟子を見た。
兄弟子は、にやりと不敵な笑顔を浮かべる。
それは、心底からの笑顔だ。
努力と、自負と、そして確かな「喜び」が、その笑みを裏打ちした。
●●。心配するな。
おびえるな。
俺たちがいる。
数え切れぬ舞台を踏み抜いてきた、百戦錬磨のお前の兄弟子たちがついている。
「好きなだけ踊れ、●●。」
●●は、大きな目をさらに大きく見開いた。
驚いたリスのようだ。
兄弟子は、苦笑する。
「よいのですか」
小さな唇が、そうか細く動いた。
兄弟子は、●●の肩にそっとその手を触れた。
俺たちは、嬉しいんだよ、●●。
お前と踊れることが。最後に、お前のような踊り子と踊れることが。
この高ぶりが、少しでも伝わってくれるといい。
そう願いながら。
「構わんさ。後は俺たちが、全部何とかしてやる」
――幕開けの合図が響いた。
さあ、行くぞ。
ふと、隣を見る。
俯きがちの●●の顔が、その瞬間に上がった。
――違う。
全員が、息を飲んだ。
●●の顔には、もはや怯えも迷いもない。
大きな目を、滑らかな頬を、遠いかがり火の赤に照らして、
小さな鬼神のように、一人ぎらぎらと舞台を見つめている。
凛々しい戦士さながらに、決意と、そして高揚を秘めて、その白い小さな足が、
――今、初めての舞台を踏んだ。