第2章 宵待月
――ふと、●●が、顔を上げた。
そこでようやく周りの喧騒に気づいたのか、おびえたような瞳で辺りを見回し、
助けを乞うように兄弟子を見る。
兄弟子は、大股に●●のそばに寄った。
開演まで、あと少しだ。
その手をそっと握り、ゆっくりと立ち上がらせる。
「いくぞ、●●」
頼りなく頷いた●●は、まだ小さな花のままだ。
そしてこの吹けば飛ぶような小さな花の、最初で最後の観客が、あの、「凶王」石田三成なのだ。
兄弟子のうちに、熾火のような決意がともった。
この娘を、守らなければならない。
その思いはどうやら、彼だけのものではないようだった。
舞台裏の袖に到着すると、そこにはすでに楽師、他の踊り手たちが集合している。
お前たち、と問いかけて兄弟子は口をつぐんだ。
皆の面差しが、かつてないほどに引き締まっている。
いつもは緊張の色など見せず、開演直前までふざけ合うような踊り手たちすら、
唇を真一文字に引き結んで、兄弟子と●●を見ると、こくりと一つ、頷いた。
兄弟子の心は、途端に熱くなる。
皆、決意を固めたのだ。
そして皆、気付いていたのだ。
座長の思い。そして●●の思いに。
踊り子として、△△一座の、誇りある演者として、
――●●とともに舞おう。