第1章 享楽主義
呆れたような笑み混じりに、そんな殺し文句を吐く謙信様の腕に、思わず絡みつくけれど。
ぺいっ、と小虫でも払うような軽快な手つきで跳ね除けられる。
「歩き辛い、まとわりつくな、」
「わーん、謙信様!こんなに好きなのにー!」
「くだらん、聞き飽きた。もっとましな文句を用意しろ」
視線をこちらに向けてくれることもなく、冷たい声でそんな事を言うくせに。
長い脚をゆっくりと捌いて、私の歩調に合わせてくれるんだから困る。
冷たくて甘くて、なのにほのかに暖かい、まるで冬の細雪に覆われているような心地にうっとりと甘えながら。
私は以前よりも随分と機嫌よく、今日一日の終わりを感じるのだった。