第6章 【閑話休題】ゆきとすず
「やっと、こっち向いた」
「っは…!?な、なんだよっ」
こちらをじっと、もしかしたらずっと見ていたらしいすずと目が合う。
どぎまぎと視線を逸らそうとするも、黒ぐろと丸い瞳が、きらきらと輝くから目が離せない。
「ここまでしても、発破をかけてもダメかな?
私に魅力が無いのか…うーん、違うか」
すずの手がするり、と伸びてきて、俺の頬を優しく擦った。
まるで幼子にするような甘い手管に、そぐわない妖しい笑みに、思わずごくり、と唾を飲む。
その喉が鳴る音すらすずに聞こえてしまいそうな、暫しの静寂。
「ゆきが、優しくて思慮深いからだね」
俺の餓鬼くさい片意地を、言葉の足りなさを、全てを正当化して、褒めてくれる。
昔から、いつだってそうだったのを、まざまざと思い出さされて。
深い溜息と共に、自然と言葉が零れた。
「…俺は、すずがいないと駄目だ」
「ふふ、ゆき、よく言えました!」
満面の笑みと共に、すずの柔らかい身体がふわり、と伸し掛る。
間もなく初めての口付けが降ってくる予感に、目を閉じた──