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【イケメン戦国】月の兎は冬に焦がれる

第5章 感傷主義





「ふふ、謙信様、女っ気が全然ないから。

まさかの男色かな、なんて疑っちゃいましたよ」


「そんな訳ないだろう、俺とて男だ。

しかし、もう俺の人生に女は要らぬ…と、思った事は確かだな」



無理矢理に明るく絞り出した言葉は、ただただ自分自身を傷つけただけだった。



好きだから知りたいの、なんて自分に言い訳をして。
きっと彼も自分を悪く思って無いはずだ、なんて自惚れの元に。
前に進む為の試練だ、なんて行動を美化した…


その結果が、このザマだ。
哀しい過去を無理矢理に聞き出して、自分の身の程も弁えずに…



「あの、謙信様、」



そんな顔をしないで、なんてどの口が言えるだろう。
私には、何もできることが無い…?
本当に?



「私では、かわりには、なれませんか」
「…どういう意味だ?」


「幸い、私も伊勢姫様と同じ、女性だから」



何かしたい、この人の為に。
そんな事はただの建前で、本当はただの自己満足。
悲しい事実を知っても、そばに居る理由が欲しいだけ。




「カラダだけでも愛せませんか、彼女のかわりに」




ほんの少しの静寂のあと、かたん、と軽い音がして。
私は恐る恐る、俯いていた顔を上げた。
空になったお猪口が、机の上で転がっている。


一気に飲み干したらしい謙信様は、しかし顔色一つ変えずに立ち上がった。



「代わりになど、なる筈無いだろう」



何も返せないまま、きっと青ざめているだろう私を一瞥すると、謙信様は店の奥から店主を呼び戻した。
そしてもうお帰りですか、と驚いている店主に十分すぎるほどの種銭を手渡した。



「迎えを寄越すまで、好きにさせてやれ。

…しかし、この店からは決して出すな」


そんな言葉を最後に、こちらをそれ以上見ることもなく。
足早に、謙信様は店を後にしたのだった。


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