第5章 感傷主義
失言はいつだって、口に出してから気付くものだ。
今回も例に漏れずそうらしい、と遅ればせながら気付く…
覆水盆に返らず、を体感しながら、謙信様の表情から目がそらせずにいる。
「何処でその名を知った?」
「宝探しの時、に…謙信様のお部屋に入ってしまいました、勝手に申し訳ありません」
「それは、いい。入る事を禁じていなかったはずだからな。
…伊勢姫は、俺が昔に攻め入った敵国の姫だった」
敵軍を殲滅し、人質として越後に囚われた伊勢姫様と謙信様は、敵同士ながら恋仲になる。
しかしそれを良くは思わない、謙信様の側近たちが伊勢姫様を無理矢理に出家させた──
「そして、世を儚んだ姫は出家先で自ら命を絶ったという訳だ」
やっぱり、伊勢姫様はもうこの世にはいないんだ──
大事に、城奥に隠されるようにひっそりと佇む位牌を思い返す。
謙信様は言い終わって、口を噤んだまま。
私の方をじっと、見つめている…
──今、私を通して、誰を見ているんですか?
そんな、答えの分かりきった問がぐるぐると回って、辛くなって目を伏せた。