第5章 感傷主義
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「…あ、気がついた」
「佐助くん…?って、うわっ!!」
「っと、暴れないで。大丈夫だから、もうすぐ着くから」
そこから、次に気がついた時には佐助くんに負われた状態だった。
気が動転した私を宥めるように、いつもより努めてゆっくりと佐助くんは話し出す。
「で?何したの」
「…聞いちゃう?伊勢姫様の話をしたの」
「…ああ、なるほど」
佐助くんは全てを察したのだろう、それ以上深くは尋ねてこない。
やっぱり、伊勢姫様について知ってたの…そんな逆恨みのような言葉を、寸でのところで飲み込んだ。
謙信様が店を後にしてから、ぐだぐだと店主が相手をしてくれるままに呑み続けた所まではなんとか覚えている。
謙信様が沢山置いていって下さったので、好きなものを呑んでいいですよ、だの。
この店から出るなってのも頷ける、こんなふらっふらのさんを独りにするのもさぞ心配だったでしょうね、だの…
初対面の私相手なのに必死に気を使ってくれる、店主の優しさに何度も泣きかけた所までは。
久々に悪酔いしてしまったのか、背中で揺られて酔いが回ってしまったのか。
ふわふわとした視界の中、見上げた月がふわふわと滲む。
そして私は、謙信様を通して向き合わざるを得なかった自分の弱さから逃げるように、また目を閉じるのだった。