第5章 感傷主義
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「よくやった!」
「、お前には期待してるぞ」
「全部投げ出していなくなっちまうような、無責任なやつはウチにはいらねぇよ。最近調子に乗ってたから、せいせいしたな…
も、そう思うだろ?」
「なぁ、わかってると思うけど先月以上に取ってこいよ?
そこで契約が取れてこそ、あいつの替わりだっても堂々と言えるってもんだぞ!」
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「」
はっ、と我に返った時には、謙信様の顔が酷く近くにあった。
膝を突き合わせる程の距離で酌み交わしているのだから当然、だけれど…思わず勢いよく頭を引いた先で、壁に後頭部を打ち付ける。
「ったぁ…!!」
「暫く動きを止めていたかと思えば、急ぎすぎて頭を打つとは。
忙しい奴だ…しかし、音の割に腫れてはいないようだな」
うぅ、と呻いて突っ伏している私の頭に、謙信様が確かめるように触れる。
酷く優しい手つきに、ささくれだった心は撫で付けられていくようで。
しかし、なあなあにはしたくなくて…落ち着いてきたところで、ある種の決意を込め、ゆっくり顔を上げる。
「謙信様」
「なんだ」
「伊勢様って、誰なんですか」
私の呼びかけに、真っ直ぐと目を合わせた謙信様は、いつも通りだ。
しかしその名を恐る恐る出した、その刹那。
謙信様のお顔が哀しげに歪んだのを、悲しいかな、私は目敏く捉えてしまう──