第5章 感傷主義
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そこから、目指すお店は目と鼻の先だった。
とは言え、謙信様は本当に抱っこから私を下ろしてくれず…
恥ずかしさの極地で、時間感覚なんて殆ど無い。
そのまま店にまで入ったものだから、店主のおじさんのぎょっとした表情がまた刺さる。
「お前のそういう表情は珍しいな」
そう言って笑う謙信様は酷く楽しそうで、これまた私にとったら珍しいのだけれど…
自分がどんな顔をしているかわからず、恥ずかしさは増す一方。
そうこうしている内に、おじさんがオススメだというお酒と梅干し、何種類かの漬物の盛り合わせを持ってきてくれる。
「謙信様、お珍しい事ですね」
「ああ…たまにはいいだろう。という」
「そうですか、様、謙信様、どうぞごゆっくり」
「あ、ありがとうございますっ」
どうやら前々からの馴染みらしい、おじさんは酷く優しい表情で私を見ると、多くを聞いたりせずすっと奥に下がって行った。
謙信様と関わるなら、多分それが正攻法なんだろうな、と今更後悔しつつ。
出した言葉は飲み込めない…
「「乾杯」」
ぐい、と喉越しの良いお酒を煽りながら。
どう切り出したものか、と考えを巡らせる――