第5章 感傷主義
「見ておれんな」
突然、耳元で低い声が響く。
ぱっと弾かれるように顔を上げる、でもそれよりも更に速く。
膝裏にがっと腕が差し込まれたかと思うと、私の身体は宙に浮いた。
「へっ!?はぁっ…!?何!?」
所謂お姫様抱っこ、の状態に気付き、首を捻る。
心臓が止まりそうなほど綺麗な顔がすぐ近くにあって、ひゅっと息を飲んだ。
「歩くのが遅い」
「へ、あ、すいません…」
「お前の歩みに付き合っていると、日が暮れてしまう」
「わ、わかりました…
わかりましたから、あの、おろして下さいっ…」
謙信様はちらり、と私の顔を見ると。
酷く久々に思える、あの意地の悪い笑みを浮かべた。