第5章 感傷主義
柔らかく微笑む謙信様。
先程とは違う意味でそわり、と胸が粟立つ。
初めて会った時とは格段に、謙信様は変わった。
「…ありがとうございます、大好きですよー」
「そうか」
私の好意を茶化したり、否定したりしなくなった。
慣れと言えばそうかもしれない、けれど…
自惚れなんかじゃ、きっとそんなのじゃなくて。
本当に好きであれば嬉しいはずの変化を、私は気付いている癖に喜べていない。
好きだと言ったきり、目を伏せたままの私を、謙信様が訝しげに見ているのに。
何を言うこともなく、ただ黙って並んで歩く。
「この先に、旨い酒と梅干を出す店がある」
謙信様が独り言の様にぽつり、と呟いた。
言うなれば、ご機嫌取りのよう…謙信様が気を使ってくれるなんて酷く珍しい。
何も悪い事はされてないのに、と内心で自分自身に苛立ちつつ。
「それは素敵ですね!是非、お供しますっ」
また目も合わせないまま、しかしいつも通りの口調で答える。
胸の中をどす黒いモヤが覆っていく…この気持ちは、忖度も損得も関係ない、酷く純粋な物だったはずなのに。
いつまで過去に苛まれるんだろう、と。
自分で自分が嫌になり、拳をきゅっと固く握る――