第5章 感傷主義
そう語る謙信様の横顔を、見つめながらきゅうり漬けを一口齧る。
ぽり、と小気味よい音とともに、汗と共に身体から抜け落ちた塩分が染み渡っていくような感覚。
科学なんかないこの時代で、経験則だけでそれに気付けるからこそ、皆がついてくるんだ――
皆の上に立つ将に相応しい、洞察力と観察力。
そして、絶妙なバランスを保つ本能と理性…
危ういほど研ぎ澄まされた視線が、私を射抜くのにふるり、と身震い。
私が食べ終わるのを待って、謙信様はまた立ち上がった。
「もう行けるか、?」
「はいっ!すっかり元気になりましたっ
謙信様のお陰です!」
「俺は何もしていないぞ」
柔らかく微笑む謙信様に、先程とは違う意味でそわり、と胸が粟立つ。
初めて会った時とは格段に、謙信様は変わった。