第5章 感傷主義
すぐ眼下に見えたはずの街並みだったけれど、山道を辿っていくと意外と遠い。
それでもクライマーズ・ハイとはまさにこの事か、疲れも忘れてひたすら歩く。
段々と景色は開けて、いよいよ商店の並びが見えてきた時には、思わずやったぁ、と声を上げるほどの達成感だった。
「よく歩けたな、途中で音をあげるものとおもっていたが」
「わぁ、謙信様!ありがとうございま…す?」
店先の椅子で休ませてもらう私に、謙信様が直々にお茶ときゅうり漬けを買ってきてくれた。
てっきり冷酒でも買ってくるものだと思っていたから面食らう。
謙信様はそれすら見透かすように、口端を上げた。
「このように疲弊している時に、酒を飲んでは倒れかねんからな。
まずは水分を、そして塩っぱい物を摂るのが肝要」
「…それは、経験から学ばれたことですか?」
「俺には兵を守る責がある。
戦場で、斬り合い以外で生命を落とすこと程、哀しいものは無い」