第5章 感傷主義
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『春日山城は天然の要塞と言われていて、山頂に天守があるんだ。
山麓に家臣団の屋敷が建ち並んでいて、そこを中心に城下町が拡がっているんだけど…坂道を転げ落ちないようにしなよ、さん』
ほんの三十分前程の佐助くんの言葉を思い出す。
坂道くらいよゆーよゆー、と思っていたのに…
「ひ、膝が…膝が笑ってます、謙信様」
「軟弱な奴は置いていく。
日頃から鍛錬していればそのようにはならんぞ」
「ま、待ってー!!」
下り坂とは思いのほかきつい。
それが整備されてない山道となれば、尚更…
春日山城はそれはそれは広大で、城からでなくても日常生活は事足りる。
連れてきてもらった時は気絶してたらしいし…
思えば、初めて城下に下るのだ。
中腹から見上げた天守の荘厳さは目を見張る程だったけれど、そこからが長かった…
もうすぐだ、弱音を吐くな、と何度言われたか。
全然もうすぐじゃない!という言葉を飲み込み、また足を進める。