第4章 刹那主義
竹ちゃんを抱えたまま、そっと襖を開けてみる。
興奮からか、彼女の口髭がぴるぴる震えている。
薄く開けた隙間から、そっと首だけ入れて覗いてみると…
部屋の片隅には、また兎。
あの斑点は梅ちゃんだ、と私が認識するより早く。
力の抜けた腕から竹ちゃんは飛び出し、梅ちゃんの方へと跳ねていった。
お宝じゃなくてお友達に会いたかったのか…
少し残念に思いながら、一応私も部屋内へと足を踏み入れる。
そこは先程の部屋とは違って、ほんの少し雑然としていた。
獲物が二差し、壁に造作もなく立て掛けられている。
肘掛に敷物、その先に…白木造りの祠の様な、もの。
室内だから祠って言うには違うのだろうけれど、神棚よりは立派で。
現代でいうなら、仏壇によく似ている。
真ん中の観音開きの扉は開いていて、中には名前の書かれた紙。
やはり、故人を祀るものだろう…
ここに来てから見かけた事がないから、謙信様の親兄弟とか?
それにしては、こんな城の奥深くに、まるでひっそりと隠されている――
中の名前に目を凝らす。
この時代特有の、読みにくく崩された文字の羅列の中…
伊勢、とそれだけ読み取れた。