第4章 刹那主義
私はと言えば、そのおよそ生気の感じられない部屋に圧倒され、立ち尽くしたままだった。
数ヶ月ここで過ごしただけの私ですら、この場所に愛着を感じている。
どうせなら自分の空間にしたくって、気に入った物を少しずつ飾ったりしているのに…
この部屋には、そういった調度品や、嗜好品の類は一切なかった。
それどころか、謙信様を感じさせるものは、見渡す限り無い…
…あえて言うなら、寛ぐ兎達くらい。
「…謙信様も、信玄様も…恐ろしくミニマリストなの?」
「うーん…元々そうだった訳じゃない、んだろうけど」
言葉に詰まる佐助くんに、それ以上どうしたものか聞きあぐねていると。
足元でぷうぷうと鳴いていた竹ちゃんが、いつの間にか姿を消していることに漸く気づく。
何処に罠が仕掛けられているとも知れないのに、部屋から出させてしまった…!
そんな風に焦りながら、辺りを見渡す…
間もなく廊下の更に奥にある襖を、かりかりと歯で掻いている竹ちゃんを見つけ、ほっと息をついた。
危ないよ、と近寄って竹ちゃんを抱き上げると、襖の方を見ながら不満げにきーきーと喚く。
「…もしかして、お宝…!ねぇ竹ちゃん、野生の勘なの!?」